もっといい部屋にしたくて、つい“何かを買い足して”しまう。その気持ちは、よく分かります。新しい家具、人気の雑貨、便利な家電——買った瞬間は、ちょっと満たされる。
でも、部屋が本当に垢抜けて見えるのは、たいてい何かを“足した”ときより、そっと“引いた”ときでした。
これは根性論でも、我慢の話でもありません。プロのインテリアコーディネーターが実際に使っている、いくつかの“型”を知るだけの話です。今ある物はほとんどそのままで、部屋を見違えさせる。そのための具体的な引き算を、順番に紹介します。
01なぜ、物を“足す”ほど、部屋はぼやけるのか
物を買い足したくなるのは、自然なことです。新しい物を迎えると、部屋が“更新された”気がするし、SNSで見かけたあの雰囲気に、一歩近づいた気にもなる。買うという行為そのものが、ちょっとした達成感をくれます。
ただ、部屋という一枚の絵で考えると、話は少し変わります。いい椅子、好きなポスター、便利な家電、もらった雑貨。どれも悪くない。でも全部が同じ声の大きさで並んでいると、目が休まる場所がなくなる。主役が多すぎる舞台は、結局、誰が主役か分からなくなるのと同じです。
美術館が、一枚の絵のまわりに広い余白をとるのを思い出してください。あの余白は「飾り忘れ」ではなく、絵を主役にするための“設計”です。部屋も同じで、上等に見せているのは、物の数ではなく、余白の質。ここから紹介する引き算は、すべて「その余白を、どうつくるか」の話です。
物じゃなくて、“余白”だった。
02プロが最初に作るのは、“見せ場”だった
インテリアの世界に、フォーカルポイントという言葉があります。部屋に入って、視線が最初に着地する“見せ場”のこと。プロがまずやるのは、物を増やすことではなく、この一点を決めることです。
場所にはコツがあります。ドアを開けて最初に目に入る、対角線上の壁やコーナー。人の視線は自然と正面へ向かうので、そこに見せ場があると、部屋全体が整って見えます。高さは、立ったときやソファに座ったときの“目線あたり”が理想です。
そして——ここが引き算です。見せ場の“まわり”は、あえて何も置かない。余白があるほど、その一点は主役になる。逆に、周りを物で固めると、せっかくの見せ場も埋もれてしまいます。一つ主役を決めると、ほかの物は自然と“脇役”に引ける。全部を主役にしようとするから、部屋はぼやけるんです。
見せ場に向くのは、鏡・アート・灯り・一輪の花。なかでも鏡は、光と奥行きを映し込んで、狭い部屋に“抜け”までつくってくれます。

03色は、“3つまで”。70:25:5という黄金比
プロが使う配色の目安に、70:25:5という黄金比があります。部屋の色を、大きく3つの役割に分けて考える方法です。
ベースカラー70%=壁・床・天井など、面積の大きい部分。ここは無彩色か、彩度の低い色に。メインカラー25%=ソファ・カーテン・ラグなど。部屋の雰囲気を決める、いちばん時間をかけて選ぶ色。アクセントカラー5%=クッションや小物、アート。ここだけは、少し主張のある色を効かせていい。
この比率が崩れる一番の理由は、“いい物”を色ばらばらに集めてしまうこと。だから、やることは足し算ではなく絞り込みです。今ある物の色を、いちど数えてみる。3色を超えていたら、はみ出した色の物を一つ、別の部屋へ引く。それだけで、面がすっと落ち着きます。
特に効いてくるのが、タオルやカーテンのような面積の大きい布。ここを無地に替えるだけで、色数が減り、部屋のトーンが揃います。

04“視線の抜け”を、1本つくる
広く見える部屋には、たいてい視線が一直線に抜けるラインが一本あります。ドアから窓へ、あるいは部屋の奥へ。そのライン上に物を積み上げないだけで、同じ広さでも、ぐっと開けて見えます。
合わせて意識したいのが、高さのムラを減らすこと。背の高い収納は、あちこちに散らさず一面の壁にまとめる。高さが揃うと、部屋の輪郭が落ち着いて見えます。さらに、家具を少し低く(ロースタイルに)すると、天井までの余白が広がって、開放感が出ます。
どれも、新しく買う話ではありません。抜けを塞いでいる物を、どかす・低くする・まとめる。引き算だけで、部屋は広くなります。
05生活感は、“消す”んじゃなくて“隠す”
リモコン、配線、ティッシュ、洗剤。暮らしに必要な物は、手放せません。だから、捨てるのではなく視界から外す。扉付きの収納やラタンのボックスにしまう、壁に浮かせる。それだけで、面が静けさを取り戻します。
とくに効くのが、“床に置かない”こと。床の余白は、そのまま「広さ」の印象になります。ティッシュ箱ひとつでも、床やテーブルから消えると、景色はずいぶん変わります。

06そして最後に、“足す”なら一点だけ
ここまで来て、はじめて“足し算”の出番です。順番が命。引き算のあとの一点は、02で決めた見せ場の主役になります。逆に、片づける前に足すと、どんないい物も埋もれてしまう。だから“足す”は、いつも最後でいいんです。
足すなら、トーンを乱さない、用途のはっきりした物を一つ。夜の時間を変えたいなら、灯りが効きます。

07よくある疑問
お金をかけずに、垢抜けたいです。
「引く・揃える・隠す」が先です。買うのは、見せ場になる“一点”だけで十分。余白のできた部屋は、今ある物のままでも見違えます。
まず、何から“引けば”いいですか。
最初は“色”から。3色を超えている物を一つ。次に、床に直置きしている物、ここ数週間ふれていない物。迷ったら「別の部屋へ一度移す」でOKです。
物が、なかなか捨てられません。
捨てなくて大丈夫です。“隠す”と“移す”だけで、余白は十分つくれます。手放すかどうかは、余白を味わってから、ゆっくり決めましょう。
狭い部屋を、広く見せたいです。
視線の抜けを一本つくり、家具を少し低く、背の高い物は一面にまとめて高さを揃える。この三つで、面積は変わらないのに広く見えます。
08まとめ
いい部屋は、“何を買うか”より、“何を残すか”で決まります。見せ場をひとつ決めて、色を三つに絞って、視線の抜けをつくって、生活感を隠す。足すのは、いちばん最後の一点だけ。
それだけで、今ある物が、見違える。順番に、ひとつずつでいい。まずは今日、いちばん“にぎやか”な物を、ひとつだけ引いてみてください。
——センスは、足し算じゃなくて、引き算でした。
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