岡本太郎という名前を聞くと、太陽の塔と「芸術は爆発だ」がまず浮かびます。
でも今回手に取った『自分の中に毒を持て』を読んで、あの威勢のいい言葉の奥にあった、もっと骨太な生き方の論理を知りました。
岡本太郎という人
岡本太郎は1911年生まれ。19歳でパリに渡り、以後10年近くをフランスで過ごしています。パリ大学では、フランス人類学の父と呼ばれるマルセル・モースに師事して民族学を学び、思想家ジョルジュ・バタイユとも親しく交わりました。
絵を描く人というだけでなく、哲学や社会学の現場に本気で飛び込んだ青年だったというのが、まず意外でした。
だめ人間なら、そのマイナスに賭けてみろ
青春出版社 公式書籍紹介ページ「マイナスに賭けてみろ」とはずいぶん乱暴な言い方ですが、要は失敗が見えている方から逃げるな、ということだと僕は読みました。
ものを選ぶときも同じで、無難な定番より、少し尖っていて手放しでは勧めにくい一点のほうが、後々「あれを選んでよかった」と思えることが多い気がします。
帰国後の岡本太郎は、1951年に縄文火焔土器を見て衝撃を受け、翌年に発表した論文をきっかけに、それまで顧みられなかった縄文土器の美が広く見直されるようになったと言われています。1970年の大阪万博では「太陽の塔」を手がけ、1996年に84歳で亡くなるまで、常識からはみ出す表現を貫きました。
『自分の中に毒を持て』という本
『自分の中に毒を持て』は1993年に青春出版社から刊行され、2017年には新装版も出ました。刊行から30年以上読み継がれ、累計50万部を超えるロングセラーです。
安全で間違いのない道より、あえて危険な道を選べという逆張りの人生論が、一冊を貫いています。
この本で岡本太郎が繰り返し語るのは、物事を長く続けられるかどうかより、その瞬間に本気で賭けたかどうかを問う姿勢です。続けることを美徳とする空気のなかで、この言い切りは乱暴に見えて、どこか励まされます。
長く使える一点を選ぶより、今このタイミングでしか出会えないものを選ぶ、という買い方にも通じる気がしました。
本の後半では、矛盾を抱えたまま社会の中で生きることについても語られます。孤立を恐れて丸くなるのではなく、矛盾だらけの社会の中で、矛盾ごと自分を貫けという主張です。
矛盾を消そうとせず、その中で自分を通せという考え方に、僕はけっこう救われました。ものを選ぶ基準も、正解を探すより自分の好き嫌いに正直でいるほうが、結局は長く付き合えるものに行き着きます。
成功とは何かについても、岡本太郎は独特です。夢が叶ったかどうかではなく、その夢にどれだけ本気で挑んだかで測るべきだと説きます。たとえ叶わなくても、精一杯挑戦できたのなら爽やかだ、と。
結果が出なかった買い物や試みを、後悔しない理由にもなる考え方です。そのとき本気で選んだのなら、それでいい。そう思えるようになりました。
岡本太郎が一貫して説くのは、安全よりも危険を選べということであり、その根っこには、自分の人生を他人の評価や常識に明け渡すな、という強い姿勢があります。
無難さがあふれる時代だからこそ、この乱暴なくらいまっすぐな言葉が、いまも若い世代にまで刺さり続けているのだと思います。

次回は、同じく常識を疑い続けた、もうひとりの表現者を取り上げます。

