ブランド名や星の数、価格——ものを選ぶとき、私たちはつい「情報」で決めてしまいます。けれど、いま人気の建築家・谷尻誠の言葉に触れると、その手前にある“力の抜き方”と“本質の見方”に気づかされます。建築の枠を軽やかに超えて活動する谷尻さんの対談集『談談妄想』を入り口に、肩の力が抜ける考え方を紹介します。
谷尻誠という人
谷尻誠は、一九七四年に広島で生まれた建築家です。SUPPOSE DESIGN OFFICEを主宰し、住宅や店舗の設計にとどまらず、家具、カフェ、サウナ、飲食まで——ジャンルの垣根を軽々と越えて活動しています。自らを「スーパー素人」「ハイアマチュア」と呼び、専門性に閉じこもらない発想で、いま最も注目される一人です。
その言葉が面白いのは、建築という難しそうな世界を、暮らしの目線までやわらかく引き寄せてくれるからです。「こうあるべき」にとらわれず、力を抜いて考える。だから建築を知らなくても、もの選びや働き方のヒントとして、すっと入ってきます。
『談談妄想』は、どんな本か
『談談妄想』は、谷尻誠がさまざまな分野の一流のゲストと、住まいや空間についての“妄想”を語り合った対談集です。インテリア誌「モダンリビング」の人気連載がもとになっています。理想の家、これからの暮らし、ものとの付き合い方——肩肘張らない対話のなかに、谷尻さんらしい発想のヒントが散りばめられています。
不便が、クリエイティブを生む
便利であることが、いつも正しいとはかぎらない。谷尻さんは、こんな逆説を語っています。
「不便がクリエイティブを生んでいるんです」
谷尻誠(インタビューより)
何でもすぐ手に入り、ボタンひとつで済む時代。けれど、少し不便なものにこそ、人は工夫し、熱中し、愛着を持ちます。手のかかる道具、ひと手間かかる暮らし——その“不便”が、実は毎日を豊かにしてくれているのかもしれません。便利さを追いかけるほど、こぼれ落ちるものがある、と気づかされます。
名前を取り除くと、本質が見える
もの選びに、そのまま効く言葉もあります。
「『名前を取り除いてから見ること』によって本質が浮かび上がることもある」
谷尻誠(インタビューより)
ブランド名、肩書き、値段。私たちは“名前”で価値を測りがちです。けれど、その名前をいったん外して、ものそのものを見てみる。すると、本当に好きか、自分の暮らしに合うかが、静かに見えてくる。目利きの第一歩は、名前に頼らず、自分の目で確かめることなのだと思います。
好きなことを、一生懸命やる
力の抜けた谷尻さんですが、芯にあるのは、まっすぐな一言です。
「自分が好きなことを一生懸命やれば、それ以上も以下もない」
谷尻誠(インタビューより)
うまくやろう、評価されようと気負うほど、かえって窮屈になる。好きなことを、ただ一生懸命やる。それ以上でも以下でもない、という潔さ。もの選びも、暮らしも、仕事も——結局はここに戻ってくる気がします。肩の力が、すっと抜ける言葉です。
読むと、肩の力が抜ける
完璧を目指す情報にくたびれたら、谷尻誠の言葉はいい薬になります。不便を面白がる。名前を外して、本質を見る。好きなことを、一生懸命やる。次に何かを選ぶとき、少しだけ肩の力を抜いて、自分の“好き”に正直になれるはずです。

次回の「目利きの本棚」は〈安藤忠雄『建築家 安藤忠雄』〉を予定しています。独学で世界的な建築家になった、その諦めない生き方を綴る一冊です。

